2018年4月17日火曜日

リーフレット完成!「いいことひとつもなし!TPP11」

TPPテキスト分析チームは、TPP11承認案および国内法案の国会審議を目前に控え、新たにリーフレット「いいことひとつもなし!TPP11」を制作しました。
リーフレットは、このウェブサイトからダウンロードできますので、印刷の上ご活用ください。


PDFのダウンロードはこちらから(A3サイズ)


 ★セブン‐イレブンのネットプリントも可能です★
予約番号27469372
2018/04/24まで有効

















さらに詳しいレポートはこちらから

2018年4月13日金曜日

【報告・映像アーカイブ】緊急集会 このまま批准・発効させてはならない!TPP11の問題点



2018年4月11日(水)に開催した「緊急集会 このまま批准・発効させてはならない!TPP11の問題点」の映像アーカイブです。
※撮影:UPLAN



【プログラムと資料】
1.TPP11の全体像:内田聖子(NPO法人アジア太平洋資料センター〈PARC〉共同代表)
  ★配布資料1
2.農産物関税:岡崎衆史(農民連国際部副部長)
  ★配布資料2
3. 食の安心・安全: 山浦康明(TPPに反対する人々の運動、明治大学)
  ★配布資料3
4. 投資: 三雲崇正(新宿区議会議員、弁護士)
  ★配布資料4
5.知的財産権(著作権):山田正彦(元農水大臣、TPP差止・違憲訴訟の会)
  ★配布資料5
6.サイドレター等:近藤康男(TPPに反対する人々の運動)
  ★配布資料6

2018年3月29日木曜日

緊急集会 このまま批准・発効させてはならない!TPP11の問題点




  米国離脱で一時は先行きが見えなくなったTPP協定。20173月以降、日本政府が主導して米国抜きの「TPP11」実現が推進され、201838日に11か国での署名がなされました。今後は各国の批准手続きとなり、日本政府は今国会でのTPP協定と国内関連法案の批准をめざしています。
 TPP11は、手続き的には「新協定」となりますが、その内容のほとんどはかつての12か国でのTPP協定を引き継いでいます。TPP12の際に多くの人が懸念していた投資家対国家紛争解決(ISDS)や知的財産権、サービス分野、食の安心・安全など、多くの分野で日本が高水準の自由化ルールを受け容れることとなり、米国復帰の可能性もゼロでない中で、中長期的な影響が心配されます。農産物分野では米国の代わりにカナダやニュージーランドからの農産物の輸入増加するのは必至です。
 私たち「TPPテキスト分析チーム」は、TPP協定定文を読み解き、その全体像と問題点を明らかにしてきました。「米国がいなくなったから心配ない」「TPP11は経済規模が小さいので影響もさほどない」「今後の貿易ルールのモデルとしてTPP11は必要」などの言説ばかりが聞こえますが、果たしてTPP11をこのまま実現させていいのでしょうか? 多くの方とTPP11の問題点を共有したいと考えております。ぜひご参加ください。

●日時:4月11日(水) 19:0020:50 OPEN 18:30
●会場:連合会館 2F 201会議室 ※会場地図はこちら 
●資料代:500

【内容】
TPP11って何? 凍結された22項目とは?
各分野:投資章(ISDS含む)、知的財産権、農産物と農業、食の安心・安全 他

【報告者】
内田聖子(NPO法人アジア太平洋資料センター〈PARC〉共同代表)
三雲崇正(新宿区議会議員、弁護士)
山田正彦(元農水大臣、TPP差止・違憲訴訟の会)
山浦康明(TPPに反対する人々の運動、明治大学)
近藤康男(TPPに反対する人々の運動)
 岡崎衆史(農民連国際部副部長)


【主催】TPPテキスト分析チーム


【連絡先】
NPO法人 アジア太平洋資料センター(PARC) 担当:内田聖子
101-0063 東京都千代田区神田淡路町1-7-11 東洋ビル3F
TEL.03-5209-3455 FAX.03-5209-3453 E-mail office@parc-jp.org 




2016年12月13日火曜日

地域を守れ!-TPP・FTAに負けない地域経済・地方自治へ-岡田知弘京都大教授

 2016年11月17日、東京・文京区の全水道会館で「TPPが地域を蝕む-地域経済・地方自治体への影響-」が開かれ、京都大学大学院経済学研究科教授の岡田知弘氏が講演しました。TPPが地域経済に与える影響と対応策がわかりやすく語られています。ぜひご一読ください。


TPP・FTAと地域経済・地方自治体への影響

京都大学大学院経済学研究科教授 岡田知弘

アメリカは米軍基地負担増をカードに日米FTAで攻めてくる

 米大統領選でトランプ氏が勝ち、TPP離脱を公約に掲げています。今日(11月17日)、安倍総理が説得に行っているということですが、そんなに簡単にひっくり返ることはないでしょう。アメリカでは、従来の民主党の地盤だったところで、労働者層が反グローバリズムということで、サンダース票も含めた形でトランプ氏に流れました。これはイギリスのEU離脱の国民投票結果と同じ現象です。イギリスでも、ブルーワーカーがEU離脱を支持し、工業都市地域で票を取りました。そうした矛盾が噴出したことが、一連の背景にあるのではないかと思います。

 安倍首相は包囲網を形成しようと、TPP批准に躍起になっていますが、アメリカが批准しない限り、発効条件は2つともクリアできません。一つは全交渉参加国が批准をすること、もう一つは6か国以上かつGDP85%を超えることです。アメリカは参加国内のGDP比率が単独で60%を超えるので、アメリカが批准しない限りTPPは成立しません。

 ただ、トランプ新大統領は米国多国籍企業の利益をさらに大きくするために、1対11か国の交渉ではカードを切り過ぎるので、1対1の交渉の方が実を取れると考えています。したがって、日本に対しては米軍基地の全額負担を求めることをカードにしながら、日米FTAを推進する線で攻めてくるのではないかと考えられます。

 日本は、すでにTPPの日米並行協議で色々な要求を呑んでしまっている可能性が大です。その上書きや訂正を迫ってくるのではないかと考えられます。ですから、仮にTPPが流れたとしても、日米FTAが待っているということです。それも、100日計画と言っているぐらいですから、時間的な余裕もないかもしれません。安倍首相が、会談でどんな口約束をしてくるのかが、一つのポイントになるかもしれません。

TPPで地域経済が発展するという言説のデタラメ

 TPPを締結すれば、地域経済が活性化するという言われ方がずいぶんされていますが、私から見れば、全くのデタラメです。今日は、地域が持続的に発展するということはどういうことなのかをおさらいしながら、TPPの問題点を明らかにしていきたいと思います。

 政府は、昨年11月25日に「総合的なTPP関連政策大綱」を発表しました。そこでの言説は、「TPPはアベノミクスの成長戦略の切り札である」「本政策大綱は、TPPの効果を真にわが国の経済再生、地方創生に直結させるために必要な政策である」「TPPの影響に関する国民の不安を払拭する政策を明らかにする」とあり、具体的な政策として出てきたのが、「農業・中小企業分野における新輸出大国」「グローバルハブ」「農政新時代」「ISDSによる応訴体制の強化」などです。

 これらの文章は、私から見れば、TPPそのものが中小企業や農家に経済的便益を与えるものではない、ということを告白したものです。まず対策をしなければダメだということです。もう一つは、最も影響が出てくる分野を明らかにしています。それは、農業であり、中小企業であり、ISDSによって訴えられてしまったら弱いという法体制にあるということです。これは中小企業政策でいえば、地方自治体の応訴体制にも関わってきます。

輸出によって一国の経済が発展するという認識の誤り

 輸出をすれば一国の経済が成長するという牢固とした考え方は全くの誤りで、アダム・スムスが『国富論』で批判した俗論です。そこに書かれているのは次のようなことです。当時、重商主義の国だったイギリスは、輸出さえすればいい、安い農産物をって貿易差額を稼げばいい、という考え方でした。しかし、輸出額と輸入額を世界経済の単位で計算したらどうなるでしょうか。これは同じ金額になります。

 つまり、輸出自体からは富は生まれません。経済的富を生み出すのは労働による生産であり、それを実現するのが分業を基にした交換です。大地に働きかけて労働の付加価値を付ける、それが農業や工業、商業が互いに取引関係を結ぶことによって、経済的富が実現されていく。それが経済発展の原理である、とアダム・スミスは言ったのです。

 さらに、アダム・スミスは、イギリスは放っておけばローマ帝国のように崩壊するだろうと警告しました。ローマ帝国は、奴隷の反乱により、食料が入らなくなり、一気に崩れていきました。むしろ国内農業へ投資を向け、農商工が互いに連携するような形で進めるべきだとスミスは強調したのです。これは日本の今の状況も写しているような指摘です。

戦後の高度経済成長は、内需中心で実現された

 高度経済成長はどうだったのかということを、経済白書で見てみます。高度経済成長は大企業を中心に重化学工業化を行い輸出で実現したという伝説がありますが、これもデタラメです。圧倒的に、内需中心で実現されたのです。1960年代後半、いざなぎ景気の頃に輸出の国民所得・総支出の押し上げ寄与度は14.3%でしたが、他方で、輸入はマイナス14%の寄与度でした。輸出や貿易はあまり寄与していません。そうではなくて、働く人の数が増え、賃金とともに個人消費が増え、物が売り買いされ、設備投資が増えていくという循環が、経済成長をもたらしたのです。

 この高度経済成長期に生産を増やし、所得を増やしたのは、勤労者や中小の個人経営、農家でした。大企業が所得を増やして経済効果をもたらしたのは、1960年代後半では東京と大阪だけです。高度経済成長を作ったのは大企業ではなかったのです。


日本経済低迷の最大の原因は、雇用者報酬の削減

 現在、日本経済が低迷している最大の原因は、輸出ができないからなのかというと、それは違います。日本では、この25年間で雇用者に対する所得分配が格段に減ってきました。雇用者報酬の推移を見ると、1995年を100とすると、2013年は日本だけが92.4%へと減っています。アメリカでは賃金の水準が下がっているといわれますが、働く人が増えていることもあり、全体では210.4%に報酬総額が増えています。それだけ市場が拡大しているということです。日本だけが、賃金が安ければいいという政策をとってきた結果です。グローバル競争に打ち勝つためだという議論になりますが、これがそもそもの間違いです。国民所得の最大部分を占める雇用者報酬が縮小するならば、地域経済も、それが複合してできた国民経済た国民経済も縮小するのは当然の結果です。

 このような事態が起きたのは、海外直接投資を盛んに行った1980年代半ば以降です。海外生産比率がどんどん上がり、2011年以降、貿易収支はマイナスに転じました。いま日本は貿易赤字国になっています。逆に投資による純利益である所得収支を見ると、これだけは右肩上がりで増えています。TPPはこれを拡大するということが目標です。そうすれば日本経済が回って、成長していくはずだという考え方です。

 高度経済成長期の日本の再生産のあり方というのは、貿易黒字を作って、翌年の食料や油や石炭を買い、原材料を買って加工し、生産物を輸出して貿易黒字を作ればいいという考え方でした。しかし、貿易黒字はもうありません。食料もエネルギーも自給率は先進国中最低の水準です。果たして、持続的に食料やエネルギーを得られるかというと、それは全く保障できない時代にあります。

東京都心部に一極集中する経済的果実

 しかも、海外売上、とくに輸出利益と、海外直接投資・間接投資の利益は、東京都心部に70%が集中し、それに名古屋と大阪が10%弱ずつで計9割が大都市に集中しています。東京では外国人持ち株比率は4割です。果たして、国内で地域に再投資して食料やエネルギーを調達できるようになるかというと、その保証はどこにもないわけです。

 東京都には、生産額比率をはるかに超える法人所得が集中しています。第3次産業の生産額比率は20%しか占めませんが、法人所得額は50%も集中しています。これは、各地域にある分工場、大型店、営業所、支店の利益が東京の本社に移転されるからです。これがこの20年間でどんどん拡大しています。再分配のための仕組みである地方交付税も削減されています。東京だけが、丸の内、品川などでビルがどんどん高くなっていくのは、海外と地方で生み出された経済的価値の移転流入が源泉なのです。この是正を図ることこそ、地域経済発展の重要な要素だということです。


東京都内でも拡大する地域格差

 といっても、東京都内がどこでも潤っているわけではありません。平均課税所得指数を全国平均100とすると、それに近いところもあれば、港区は3倍を超える350にもなります。日本でも一番所得格差が大きいのが東京都内です。ごく一部しか潤っていないということが、現に起こっているわけです。TPPはこれをさらに拡大していくという道を辿ろうとしています。

 政府のTPP政策大綱などの言説では中小企業や農家ががんばれば儲かると言っています。確かに、がんばればそういう企業や農家も少数ながら出現するかもしれませんが、農業全体や地域全体がどうなるかといえば、全く違う方向になるでしょう。TPPの期待効果では、輸出や海外進出など、出る方向しかメリットとして強調されていません。入ってくる問題については一切触れていません。政府は中小企業分野の対策として4,000社の海外展開を支援するとしていますが、国内において中小企業は350万社もあるのです。

地域経済・地域社会をつくっているのは中小企業

 地域のなかでどういう中小企業が地域経済を担っているかを調査すると、例えば京都では、京都に本社がある企業で働いている従業者は全体の8割です。とりわけ、一つの工場や商店しかない企業で働いている人は5割います。残りの2割が京都外に本社がある企業で働いていて、そのなかに一部外資系企業が含まれているという状況です。地域経済を圧倒的に担っているのは、地元に本社がある中小企業であるということが言えます。その他の地方で調べれば、もっと地元比率は高くなるでしょう。

 2010年の政府の中小企業実態基本調査を調べてみると、中小企業がどのような取引関係にあるのか、どこに販売しているのかがわかります。海外への販売は0.4%、国内・海外どちらもという企業がわずか4.2%、合わせて5%にも届きません。小規模な企業ほど、地元地域内、同一県内取引が多く、地域経済のなかで経済的価値を循環させる役割を果たしていることがわかります。

TPPで農産物の輸出が増えることよりも、輸入額とのアンバランスが拡大する

 農業についても、政府は農産物の輸出が増えたと言いますが、輸入のことは言っていません。2014年度の輸出額6,117億円に対し、輸入額は9兆2,408億円というのが現実です。国別に見ると、日本は最も輸入率が高い国となっています。TPPになれば、これがもっと広がる可能性があるわけで、政府はそうしたマクロな構造の話をあえて避けています。

 地域の中で農業や地域が衰退するとどうなるかといえば、国土の保全ができなくなります。山を管理している自治体は小規模な自治体が多いのです。政府は20万人以上の都市を対象に、地方創生の連携中枢都市圏の中心都市を指定しようとしていますが、それらは2012年時点で国土の中で1割しか占めていません。逆に10万人以下の小規模な自治体は国土の半分以上を保全しています。これらの自治体への投資を引き揚げ、より効率的な競争ができる中心都市に行政の投資を再分配すれば、水害や土砂災害などのリスクが確実に高まることを考えなければなりません。


 しかも、各地域経済の構造を見れば、多国籍企業で作られている経済はどこにもありません。圧倒的に中小企業がベースであり、これに農家、協同組合やNPOがあり、地方自治体自身も投資活動を繰り返しながら地域経済を支えている構造があります。むしろこれを生かしながら地域づくりをするという方向が大事であるからこそ、中小企業振興基本条例や公契約条例が制定されてきているのです。

TPPがもたらす地域経済・地方自治体への影響

 TPPの地域経済・地方自治体への影響は、30章のうち各分野別の物品市場、サービス市場アクセス、投資、国境を超えるサービス、金融サービスなど多岐に渡ります。ここでは、地方自治体の問題に絞りますが、それでも地域産業政策から住民福祉、第3セクターを含む国有企業、投資、政府調達、その運用、制度に関する規定、紛争処理、最終規定も絡んできます。大きな影響の柱としては、関税撤廃による影響と非関税障壁の撤廃による影響の2つに分かれます。

 政府による農業への影響試算というのは、最終農産物だけを焦点にシミュレーションしていますが、地域産業、中小企業の視点から見ると、それを加工して運び、流通させ、飲食店や旅館で提供、販売することを考えれば、第三次産業にまで波及します。例えば、京都で京野菜など地元産の農産物がとれなくなれば、かなりの影響が及びますが、そこは想定されていません。

 鈴木宣弘東京大学教授のシミュレーションから明らかなように、TPPで確実に利益が増えるのは、関税があると部品の取引のために損失を被るような金属加工、組み立て系の企業、商社、インフラ輸出など一部の企業です。それらの企業には、ISDS条項で半ば脅迫的に市場を確保できるメリットがあります。しかし、地域経済を圧倒的に担う産業にとっては、原則無関税化によって今よりマイナスの効果が確実に高まります。

 鈴木教授の試算では、農林水産物への影響が1.5兆円、産業連関効果によって3.6兆円のマイナス、雇用は76.1万人減と推計されます。さらに、米タフツ大学が国連の国際経済政策モデルを使って試算したところによると、日本もアメリカもGDP増加率はマイナスで、失業者は増加するという結果になりました。多国籍企業は市場を確保できても、国内の中小企業経営と就業者は減るということです。その結果、自由化すればするほど、貿易量は減り、雇用も減るというのが、近年の大きな傾向です。そうした背景があるからこそ、アメリカでは民主党、共和党ともに党員から「TPPは止めてしまえ」という声が高まったのです。

工事や物品、サービスの現地調達(ローカルコンテンツ要求)ができなくなる

 非関税障壁撤廃の影響はどうでしょうか。こちらは中央政府レベルだけでなく、地方自治体レベルの地域経済政策、条例、施策レベルの運用段階でも影響を及ぼすと考えられます。第9章「投資」と第15章「政府調達」が最も重要な部分です。

 投資章には、ローカルコンテンツ規制を禁止するという条文があります。和訳では「特定措置の履行要求」となっています。「いずれの締結国も、自国の領域における締結国又は非締結国の投資家の投資財産の設立、取得、拡張、経営、管理、運営又は売却又はその他の処分に関し、次の事項の要求を課してはならず、又は強制してはならず、また、当該事項を約束し、又は履行することを強制してはならない」「一定の水準又は割合の現地調達を達成すること」とあります。

 これには物品や工事、サービス、雇用も含まれます。非正規雇用ではなく常用雇用を推進するために工場立地協定を結ぶ自治体も増えていますが、これも引っかかってきます。また、「自国の領域において生産された物品を購入し、利用し、もしくは優先し、又は自国の領域内の者から物品を購入すること」をやってはいけない、ということです。

 もともと、アメリカでは現地調達のための「ローカルコンテンツ法」が昔からあり、民主党の地盤の州で広がってきました。域外企業や多国籍企業に対する反発が「バイアメリカン」運動として広がっていました。バーニー・サンダース議員などは、これができなくなるとして、TPPはダメだと訴えてきました。

 現在、日本では41道府県の210の地方自治体が、中小企業振興基本条例や地域経済振興基本条例の下で大企業の役割という規定を置いています。工場立地や大型店立地の際の自治体との協定文書があります。仮にTPPが発効した場合、これらのローカルコンテンツ規制がISDS条項の対象として国あるいは地方自治体が外国投資家によって訴えられる可能性があります。自治体ができる政策が極めて限られてくるということになります。

WTO基準から始まったとしても、エンドレスに自由化が続く

 政府調達章では、対象機関、対象金額の拡大を盛り込んでいます。今回の協定文書は、政府の定義ではWTO協定と同じく、国の諸機関に加えて都道府県の政令市に限定しています(附属書15-A)。ちなみに、アメリカの州は入っていません。附属書15-Aでは、対象基準額が地方政府、自治体の場合は物品調達で2,700万円以上、建設サービスで20億2,000万円以上、その他サービスで2,700万円以上とありますが、これはWTO協定の政府調達規定と同じです。甘利大臣は「だから安心してください」と説明しましたが、よく読んでみると、全然そんなことはありません。

 第15.4条では、「一般原則」として、「内国民待遇及び無差別待遇」が掲げられ、各締結国(その調達機関を含む)は、対象調達に関する措置について、他の締結国の物品及びサービス並びに他の締結国の供給者に対し、即時にかつ無条件で、次の物品、サービス及び供給者に与える待遇よりも不利でない待遇を与える」としました。また、締結国は、「電子的手段の利用」の機会の提供に努めるものとされています。

 第15.23条では、政府調達に関する小委員会を設けるとされています。第15.24条では、その役割として、追加的な交渉を行い、「調達機関の表の拡大」「基準額の改定」「差別的な措置を削減し、及び撤廃すること」を議題にすると明記されました。

 さらに、第15.24条2項では、「締結国は、この協定の効力発生の日の後3年以内に適用範囲の拡大を達成するため、交渉(地方政府に関する適用範囲を含む)を開始する。また、締結国は、当該交渉の開始前又は開始後においても、地方政府の調達を対象にすることついて合意することができる」とされています。

 つまり、TPPの初期設定においては、WTOと同じところから始まりますが、それで永久ではないわけです。「エンドレスの自由化」といわれますが、まさにその通りです。今後の追加交渉において、地方自治体を中心に、対象機関の拡大と適用基準の引き下げが当初から想定されていると読むべき条項ではないかと思います。

 ちなみに、TPPに先行する4か国が2006年に締結したP4協定で制定された政府調達の基準は、630万円以上の物品・サービス、6億3,000万円以上の工事については、TPP参加国の内国民待遇が求められます。この水準でいくと、日本のほぼ全ての市町村の調達行為が対象になることになります。将来的にTPPがこの水準を下回る可能性は否定できません。

地域で納めた税金が地元に還元せず、多国籍企業の餌に

 現在、日本の地方自治体では、中小企業振興基本条例や公契約条例が制定され、地元中小企業向けの発注を積極的に行うところが増えていますが、TPPが発効して対象機関が拡大されると、ISDS条項の対象になることが起こりかねません。

 第17章国有企業では、「地方政府が所有し、又は支配している国有企業等」に関わる規定も、5年以内に小委員会で追加的交渉を行うことが明記されています(附属書17C)。第3セクターや直営の施設、病院などが対象になり、政府調達と同じく、調達において無差別待遇が強制されることになります。

 横浜市は、中小企業振興基本条例を議員提案で制定しました。それに基づき、毎年議会に対して実施状況を報告しています。地元中小企業で建設工事、物品購入、サービスをどれだけ発注したかという実績を区役所別に詳細に報告しています。こうした行為ができなくなる恐れがあります。地域住民や企業が納めた税金が、地元に循環するのではなく、多国籍企業市場の餌になっていくということが起こってきます。

国民主権・国家主権・地方自治権を侵害する憲法違反の条約

 地域経済に関わる問題以上に、大きな問題が存在します。それは、国家主権の侵害であり、国民主権の侵害、地方自治や住民自治権の侵害でもあります。非関税障壁の撤廃とは、多国籍企業の経済的利益を最優先し、各国の国民生活の安全や福祉の向上、国土保全のために作られてきた独自の法制度や条例を改廃するということです。

 TPP委員会の存在も大きな問題です。TPP協定では、投資や政府調達の章だけでなく、多くの章において小委員会や作業部会を設け、時限を切りながら利害関係者も入れた追加的交渉がなされ、初期に設定された経過措置や例外を撤廃するなど、エンドレスの自由化が想定されています。その小委員会の司令塔的な役割を果たすのがTPP委員会です。

 TPP委員会は締結国政府代表者によって構成されます。つまり首脳国会議と同じで、閣僚会議級のものです。TPP委員会の権限は強大であり、協定の改正、修正の提案、協定に基づいて設置される全ての小委員会、作業部会の活動を監督すること、締約国間の貿易・投資を一層拡大するための方法を検討することなどを行うとされます。さらに、特別もしくは常設の小委員会、作業部会、その他の補助機関の設置、統合、解散、附属書の改正等を行うことができます。

 さらにその意思決定は、コンセンサス方式(全加盟国の了解)とされる一方で、第30章の親規定としてGDP85%主義が存在しており、そのどちらが優先されるのかという問題があります。第30章には、新たに持ち込まれた第2ルールのGDP85%以上、6カ国の合意があれば足りるという大国主義を持ち込んでいます。この親規定によって、協定の各章も変えられることになるのではないかと私は危惧しています。

 交渉過程に関わる情報は、現協定案において4年間は国会議員にも公開されません。追加交渉の項目が、一体、どれだけ国民や国会に公開され、その判断を仰ぐ材料が出てくるのでしょうか。場合によっては、細部に渡る細かい改訂は条約批准議案として国会に出てこない可能性が十二分にあります。それは完全に白紙委任ということになります。

 国連もWTOも、一国一票の協同組合的な民主主義の原理で回っています。TPPの意思決定ルールは初期の第1項目は協同組合主義ですが、第2項目の85%ルールは株主総会方式です。大株主が全てを決定できるというものです。このようなルールに任せていいのかという問題が、国家主権に関わる問題として存在しているのです。地方自治体で判断できる領域が狭まり、制限の方が大きくなるということは、明らかに地方自治権の侵害であり、憲法違反の条約です。絶対に批准してはなりません。

地域経済・地域社会を守るバリアづくりを

 いま、少数の多国籍企業の経済的な利益のために、大変な交渉と金銭的負担を費やし、こういうことをしていいのか、ということが問われています。米国をはじめ、各国に反対運動が広がっています。そうした運動と連携しながら、地方自治体ごとに、TPPやFTAを止めることと、発効するまでの猶予期間に、中小企業振興基本条例や公契約条例というバリアを多くの自治体に制定し、実質化していくということが必要です。そうすれば、追加交渉で簡単に枠組みを広げるということはできなくなります。

 自治体の首長や幹部の方と話をすると、地方自治に関わる条項について、国からはほとんど説明がないというのが実情です。これは許されるのでしょうか。地方自治体でも意見書や決議が出ていますが、もっとその輪を広げていく必要があります。

全国210自治体に広がった、地域経済振興のための基本条例・公契約条例

 次に、地域経済振興のための基本条例、公契約条例についてご説明しましょう。

 1999年、中小企業基本法の改訂と、農務基本法に代わる食料・農業・農村基本法が制定されました。どちらの法律にも新しい条項が加わっています。

 中小企業基本法の第6条には、「地方公共団体は、基本理念にのっとり、中小企業に関し、国との適切な役割分担を踏まえて、その地方公共団体の区域の自然的経済的社会的条件に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する」とされました。それまで、地方自治体の産業政策は、国の政策に準じていればいいとしていました。例えば、補助金や融資は上乗せか横出しでいいという考え方でした。ところが、地方分権一括法が制定され、「地域産業政策については地方自治体が政策を策定し、実施する責務がある」という地方分権時代に合わせた改訂がされたのです。

 これに基づき、早いところでは2000年ぐらいから、大阪府の八尾市などで中小企業振興基本条例ができ、大企業の役割規定などを盛り込んだ条例が広がっていきました。日本では1979年の墨田区の条例が最初です。東京都の区の条例としてあったのが、この法改正の後に一気に地方に広がっていったのです。

 さらに民主党政権時に中小企業憲章が閣議決定され、EUの小企業憲章に倣い、「中小企業は社会の主役である」「経済の牽引者である」とする有名な前文から始まる憲章が制定されました。この閣議決定の下で、中小企業を優先した政策を国として採っていくことになりました。自公政権になっても、この閣議決定は有効であることが、国会質疑で答弁されています。これによって、さらに条例制定が加速していきました。

 ただ、1999年の法改正からの初期の中小企業施策は、個別の中堅規模以上のがんばる企業が中心の施策が多く、従業者数が少ない小規模企業に対する施策が薄かったため、各地方の商工会の会員が減少してしまいました。成長という側面では目立たなくとも、小規模企業は社会経済を維持する重要な役割を果たしているということを認めるべきだという声が上がり、商工会連合会の運動によって、2014年に小規模企業振興基本法が制定されました。ここでも、「各自治体は小企業の振興のために基本計画を作り、執行する責務がある」とされます。

 そして2015年、都市農業振興基本法が議員立法で制定されました。この都市とは、3大都市圏に限らず、地方都市においても自ら都市農業が大事だという認識の下に区域設定を行い、農のある町づくりや地域づくりが可能になりました。こうして、産業施策がどんどん地方分権化し、地方公共団体でできる領域が広がりました。

 このような結果、現在210自治体に中小企業振興基本条例が広がっています。とくに3.11の震災では、小規模企業が店にあったペットボトルや食品を1コインで供出したり、小規模な建設業者は重機を自主的に出して、瓦礫をどかしながら避難路や補給路を確保したりするという動きがありました。こうした小規模企業をなくしてはいけないという観点から、防災上の重要な役割が評価され、防災に関する項目を加えた条例が広がっています。

 一方で、千葉県野田市は2010年から公契約条例で、市が定める最低賃金、あるいは再生産費がなければ、市が発注する仕事に参加できないという、地域経済の振興と労働条件の改善を目的にした新しい条例が生みだされ、30自治体に広がっています。

中小企業は地域経済、地域社会の担い手であることを明確にする

 すでに旧中小企業基本法の下、ほとんどの自治体が補助金条例や融資条例、減税条例を持っています。いま広がっている条例は、基本条例、あるいは理念条例といわれるものです。自治体として基本的に何をやっていくのかを示した、「産業政策の憲法」として、首長や担当者が変わっても責任を持ってやっていくという仕組みです。

 こうしたことを定めるために、まず中小企業は地域経済、地域社会の担い手であるとの役割を明確にします。次に地域づくりを進めるために中小企業の振興は必要であるとの公益性を明確にします。そして誰が何をやるのか、中小企業と大企業の役割規定を明確にします。大企業は、中小企業の育成や支援に務めるものとする、という努力規定によって、地域経済の振興を図るというものです。

 2012年の愛知県条例以来、金融機関の役割規定も入ってきました。愛知県では、東海銀行がなくなり、メガバンクの本店が東京に移ってしまいました。愛知県内の中小企業に情報提供したり信用を供与する銀行がなくなってしまいました。地元の銀行や信用金庫は力が弱く、隣県から地方銀行がどんどん参入しました。これではまずいということで、地方自治体が金融機関を地元貢献型に誘導するための条項を盛り込みました。アメリカでは、地域再投資法として1980年代からある考え方、手法です。

 最近では、「地域内経済循環」や「農商工連携」などの明記も進んでいます。これは当然、TPPと真っ向から対立する地元優先の考え方です。さらに、福祉や教育、環境保全は産業施策と一体だという考え方も入ってきています。それは地域で全てつながっているからです。

相模原市条例を例に、TPP・FTAで懸念されることを考える

 このように、今は優れた条例への発展過程の途上にあるわけです。これがTPPに入るとどうなるのでしょうか。ここで、相模原市を例に考えて見ましょう。2014年、相模原市がんばる中小企業を応援する条例が制定されました。

 第6条では「大企業は、中小企業の振興が市内経済の発展において果たす役割の重要性を理解し、市が実施する中小企業の振興に関する施策に協力するよう努めるものとする」とあります。これは、運用次第では、TPPのローカルコンテンツ規定禁止に抵触する可能性が大です。

 第8条(3)では、「市が行う工事の発注、物品及び役務の調達等に当たっては、予算の適正な執行並びに透明かつ公正な競争及び契約の適正な履行の確保に留意しつつ、発注、調達等の対象を適切に分離し、又は分割すること等により、中小企業者の受注の機会の増大に努めること」とあり、これも、TPPの政府調達章の関連項目に抵触する可能性が大です。

 さらに、相模原市では2012年に公契約条例を制定しています。相模原市は政令市に移行したため、TPP発効後に即座に政府調達の対象機関になります。

 公契約条例の第2条では「この条例において『公契約』とは、市が契約の当事者となる工事又は製造その他についての請負の契約及び労働者派遣契約をいう」と広い範囲で設定しています。対象となる契約として、現時点においては、市が発注する予定価格1億円以上の工事請負契約、市が発注する予定価格500万円以上の業務委託に関する契約又は労働者派遣契約のうち、次に関わるものとして仕事の内容を明確にして規定しています。そして労働報酬の下限額の設定と市による立ち入り調査権を規定しています。工事請負契約、業務委託契約それぞれについて、最低賃金が決められています。これは政府調達章の内国民待遇、非差別条項との抵触可能性が出てきます。

 第3条の基本方針では、「(4)事務及び事業の性質又は目的により、価格に加え、履行能力、環境への配慮、地域社会への貢献等の要素も総合的に評価して契約の相手方となる者を決定する方式の活用を推進すること。(5)予算の適正な使用に留意しつつ、地域経済の活性化に配慮し、市内の中小企業者の受注の機会の増大を図ること」とあり、これらはローカルコンテンツ要求禁止や大企業の市場縮小の点で訴えられる可能性があります。

 労働報酬下限設定、立ち入り検査権は、自由な投資活動を阻害するとしてISDSで訴えられる可能性もあります。

地方自治体が条約に先行して条例を制定し、実質化し、政府を包囲しよう

 私たちにできる対応策としては、TPPやそれに類似するFTAを批准・発効させないことが第一です。仮に発効したとしても、政府調達項目の対象を拡大させないよう、地方自治体が条約に先行して地域経済・中小企業振興基本条例・公契約条例を制定し、実質化し、地方自治体間の連携を図り、政府を包囲していくということが必要になってきます。

 また、自治体においては、ISDSを必要以上に恐れて、条例の自粛改定をしないことです。米韓FTAでは韓国の自治体が条例を多数改定しました。大店法の規制や、ソウル市では条例を30本、ISDS提訴の恐れから事前改廃してしまいました。こうしたことをしてはなりません。

 万が一TPPやFTAが発効した場合、またそうした措置ができない場合でも、施策運用レベルで中小企業を大事にした分割発注をすることなどもできます。例えば、WTO協定の下、麻生政権の時に、デジタルテレビ普及のために「スクール・ニューディール事業」を実施しました。京都府は、3,500万円以上を一括調達したので、大手のヤマダ電機が独占受注してしまいました。ところが福岡県は学校ごとに発注したため、総額が抑えられ、地元中小企業が仕事を得ました。そのように、運用による対応も可能だという前例があります。現時点でその必要はありません。地域から日本全国の動きを変えていくということは十分可能です。

 現行憲法の下であれば、こうした地域振興のための条例の制定は何の問題もありません。各自治体がTPP反対の意志を込めて条例を制定していった時に、果たして政府はTPPやFTAで自治体の条件が悪化するような意思決定をできるでしょうか。ですから、TPP反対の動きを強めていくためにも、まずは足元から始めることが大事なのです。TPP反対という国会周囲の運動とともに、各自治体での反対議決や、中小企業振興基本条例や公契約条例などの政策を地域で実質化していくことが重要だと思います。

文中資料提供:岡田知弘

2016年12月12日月曜日

メールニュース TPP批准にSTOP! Vol.21 声明「TPP協定批准・関連法案強行に、断固として抗議する」

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■■  \\  メールニュース TPP批准にSTOP! vol.21 // ■■
■           12月11日発行              ■

※このメールニュースはこれまでTPPテキスト分析チームのブックレットや集会にご参加くださった皆様をはじめTPP阻止の取り組みでご一緒した皆さまにお送りしています。ご不要な場合は管理者宛て(末尾)にご連絡ください。

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1.TPP協定および関連法案が国会承認、成立
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 12月9日、参議院にてTPP協定および関連法案が採決されてしまいました。

 連日、国会前では抗議行動も行われ、また衆議院TPP特別委員会での強行採決、米国の情勢変化にもかかわらず、意味のない、合理的な理由もない採決です。ある外国人ジャーナリストは、日本政府のTPP批准に関して、「死んだ婚約者にすがって結婚しようとしているようだ」と評しました。

 もちろん日本の批准は、TPP協定全体の行方にはさほどの影響はなく、現状のTPP協定は確かに死んでいます。しかし本日の批准の意味は、(他の法案も含めて)政府与党の暴走であり、また日本が粛々とTPPを議論し「民主主義的な手続きによって批准した」という「実績」をつくってしまったことに他なりません。今後、日米FTAなど別の何らかの交渉がスタートした際に、この実績のもと日本は「TPP水準のものは受け入れた」という前提から話がされてしまいます。

 今後の展開や運動の対応については、改めてお伝えできればと思いますが、まずは本日の採決後、「TPPを批准させない!全国行動」は急ぎ下記の声明文を出しました。

 そして強調したいことは、他のメガFTAの動きとTPPのリンケージ、さらには貿易のルールをどのように変えていくのか、という対案です。欧米やアジア各国では、確実に「ポストTPP」の対策に向け激しく動いています。日本の市民社会も早急にこの課題に取り組まないとなりません。

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2.声明「TPP協定批准・関連法案強行に、
断固として抗議する」
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 12月9日の採決を受けて、「TPPを批准させない!全国共同行動」は、以下の声明を出しました。

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TPP協定批准・関連法案強行に、断固として抗議する

 政府与党は、12月9日、圧倒的多数が今国会での批准に反対している世論を無視して、ルール破りの異常な国会運営を繰り返し、TPP(環太平洋連携協定)の批准と関連法案の成立を強行した。断固抗議するものである。

そもそもTPP協定の内容は、国会決議にも自民党の公約にも反するものであり、国会審議でも政府はまともな情報を開示しないまま、提起されたさまざまな疑問や参考人などの指摘に対しても、根拠も示さず「その懸念はあたらない」を繰り返すだけであった。私たち参加各国の人々の、いのちや暮らし、地域、人権や主権さえも脅かすという、TPPへの懸念は、払拭されるどころか、ますます強まった。

しかも、次期アメリカ大統領に決まったトランプ氏が、「TPPからの離脱」を宣言し、もはやTPPが発効する見通しが無い中での暴挙である。ニュージーランドを除く参加各国が、承認作業を止めているなかでの国会承認は、無駄だという以上に危険である。二国間協議を主張するトランプ氏に、TPP水準を最低ラインとした協議に応じることを、国会がお墨付きを与えたに等しい。

私たち「TPPを批准させない!全国共同行動」は、この臨時国会を前に、多様な国民階層を代表する20名のよびかけ人と、これに賛同する270団体及び多数の市民を結集して、「今国会でTPPを批准させない!」を合い言葉に、多様な行動を展開してきた。10月15日には、各地で取り組まれた集会、学習、宣伝行動を土台に、2010年にTPP反対運動が始まって以来最大規模で中央行動を成功させ、緊急に提起した請願署名も70万余に達している。この動きに励まされ、国会最終盤にも全国各地で行動が展開されている。臨時国会開会以来毎週水曜日に国会議員との情報交換を行い連携を強めるとともに、衆参審議最終盤には、連日座り込み行動も展開し、多くの市民も参加した。

私たちは、今回の暴挙に抗議し、ここまで育んできた共同の広がりを力に、今後始まるであろう日米二国間協議など、多国籍大企業の利益のためにいのちや暮らし、地域を差し出すあらゆる企てにストップをかけるため、奮闘するものである。

以上

http://nothankstpp.jimdo.com/

「全国共同行動」事務局連絡先(共同事務局)
http://nothankstpp.jimdo.com/

・TPP阻止国民会議(連絡先:山田正彦法律事務所)
千代田区平河町2-3-10ライオンズマンション平河町216(TEL03-5211-6880 FAX03-5211-6886)

・フォーラム平和・人権・環境(平和フォーラム)
千代田区神田駿河台3-2-11連合会館内(TEL03-5289-8222 FAX03-5289-8223)

・STOP TPP!! 市民アクション(連絡先:全国食健連)
渋谷区代々木2-5-5 新宿農協会館3階(TEL03-3372-6112  FAX03-3370-8329)

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3. 大好評で6万部突破!
  ブックレット「そうだったのか!TPP」
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 TPPテキスト分析チームが8月に刊行したブックレット「そうだったのか!TPP」は、発売以来、全国から注文が相次ぎ、増刷を続け6万部に達しています。学習会などでご利用いただいていますが、まだまだ多くの方にお読みいただきたいと願っています。

※TPPの中身をわかりやすく、24のQ&A方式でまとめています。学習会やイベントでTPPの問題を考えるテキストとしても最適です。
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 ぜひお読みいただき、TPPについて考えるきっかけとしてご利用ください!
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編集後記
ついに採決されてしまいました。予想していたこととは言え、これまで全国でたたかってきた多くの方々のことを思うと、悔しいかぎりです。世論を見ていると「発効は絶望的」ということでちょっとほっとしているようにも見受けられます。しかし、安心はまったくできません。トランプ氏は二国間交渉の意向を示しており、その際、TPP水準を最低ラインとした協議に応じることを、国会がお墨付きを与えたに等しいからです。この重要性、危険性については、あまり認識されていないように思われます。今後は、こうしたことの認知をさらに高めていく必要があると思います。全国共同行動による今後の抗議などの予定は未定だそうですが、わかり次第、またお伝えしていきます。(柴田)
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【編集】アジア太平洋資料センター(PARC) 内田聖子/柴田麻里
【発行】TPPテキスト分析チーム
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2016年12月5日月曜日

【公述起こし】11/25参議院TPP特別委員会 中央公聴会 TPP批准する理由なし!4人中3人が反対意見


 2016年11月25日、参議院TPP特別委員会で行われた中央公聴会の内容を文字に起こしました。与党推薦1名、野党推薦2名、公募1名の公述人による陳述は、4人中3人が反対。TPPへの賛否、そして私たちはどこへ向かうべきなのかを考えるうえで、参考となる内容です。ご一読ください。

▼参議院インターネット中継
http://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/index.php 

■公述概要


1.根本勝則(日本経済団体連合会常務理事/自民党・公明党推薦)


・「豊かで活力ある日本の再生」の大きな鍵を握っているのはイノベーションとグローバリゼーション。
・我が国の産業の空洞化を防ぎ、投資先としての魅力を高め、成長軌道に乗せるためにはTPPが不可欠。
・TPP協定が実現すれば、相手国が貿易総額に占める割合は約40%となり、約20%のEU、38%の中国を超え、米国の47%に近づくことになる。
・世界のGDPの約40%の巨大な市場の活力を取り込むことで、我が国のGDPは約2.5%~2.7%押し上げられる。
・域内製品は累積原産地規則の下で、メード・イン・TPPとして認定することによって、関税の引下げ、撤廃のメリットを享受できるようになる。
・成長著しいアジア太平洋地域に高度なバリューチェーンを構築することを容易にする制度インフラを獲得できる。
・貿易や投資に関する広範かつ高度な水準のグローバルなルール作りをリードする21世紀型の画期的な協定である。
・TPP協定は、自由、民主主義、法の支配、市場経済といった共通の価値観、原則に基づく経済秩序づくりの一環。

2.内田聖子(アジア太平洋資料センター代表理事/民進党推薦)


・TPPが直面している状況は、過去30年の自由貿易推進の歴史の失敗を如実に表している。
・日本が急いでTPPをこの国会で批准するという合理的な理由はすでにない。
・国民に行き渡るようなメリットがどこにあるのか明らかになっていない。
・衆議院のTPP特別委員会で強行採決とは到底受け入れられない非民主的な決定。
・TPPの発効がほぼ絶望視されている中で、各国が立ち止まって静観している。即座にこの審議を止めるべき。
・TPP発効という名の下で、すでに「TPP対策大綱」で1兆1,906億円の予算が組まれ、相当程度執行されている状況は極めて異常。
・これ以上の規制緩和や一人一人の生業や人生の選択にまで関わる事態を放置することはできない。
・日米並行協議は非常に危機的。アメリカからの要求に相当程度応じた一方的で片務的な交渉である。
・TPPが発効しなかったときに、日米並行協議の内容について、どう責任を取るのか、どうやって原状復帰を行うのか。何もなかった状態に戻されなければ困る。
・大企業や投資家だけが利益を得る仕組みではなく、どうやって公平な分配、地域の再生ができるか、こういう貿易のあり方をきちんと議論をしていくことに日本も貢献を。

3.萩原伸次郎(横浜国立大学名誉教授/共産党推薦)


・トランプ氏がTPPから離脱すると発表し、オバマ大統領もTPP批准を諦めたなかで、TPP協定は発効できない。歴史的なごみ箱に入れられたといえる。
・この国会でのTPP審議の意義というのは、基本的に崩壊している。
・国益という言葉は立場の違いによって異なる。大局的立場から判断することが求められる。
・自由貿易が生産性を高め、イノベーションを引き起こし、輸出増大による高賃金職の創出につながるとの貿易効果は、すでに過去のもの。
・自由貿易による輸出促進が雇用を増大させるとよくいわれるが、必ずしもそうなる保証はどこにもない。
・多国籍企業本位の効率的なバリューチェーンを形成されるということが大変大きな問題。
・締約国から安い農産品や食品が日本に大量に入ってくるということになれば、日本の賃金は確実に低下の傾向をたどる。
・さらなる賃金低下、内需の落ち込み、デフレの進行、魔のスパイラルという事態がTPPによって引き起こされる可能性を否定することはできない。
・賃金を上げる、日本経済を活性化したいということを考えるのであれば、TPPから離脱することこそが、日本の賃金、経済、そして地域の底上げになる。
・TPPは多国籍企業や海外進出を図ろうとする一部の中小企業の利益になるだろうが、多くの労働者、農業者、中小企業の方々、消費者、地域住民との矛盾がある。

4.住江憲勇(医師・全国保険医団体連合会会長/公募)


・衆議院での強行採決、十分な開示と徹底的な審議がなされないまま、今国会で承認、批准されることは断じて許されない。
・貿易交渉のあり方とは、相手国と相互に事情、実情を真摯にしん酌し合い、対等、平等、互恵関係を構築することにある。
・強者の論理、資本の論理むき出しのTPPは、前世紀までの列強による世界支配によってテロのような報復の連鎖を生んでいるという反省に対する冒涜である。
・TPP協定は我が国の公的医療保険制度を切り崩し、国民の生活と権利を損なうものである。
・新薬の高止まりが続き、医療保険財政を圧迫する。
・透明性や手続の公正の名の下に、医薬品の保険適用や公定価格決定プロセスに多国籍企業が利害関係者として影響力を及ぼすこと、すなわち日本の薬事行政への介入が懸念される。
・特許期間の延長やバイオ医薬品のデータ保護期間の設定、特許リンケージなど多国籍企業に有利なルールで、ジェネリック医薬品の開発を限りなく遅延させることになる。
・「オプジーボ」に「市場拡大再算定ルール」が適用され、50%引下げが決定されたが、TPPの下であれば、直ちにISDS条項の発動という事態になったかもしれない。
・ISDS条項は前時代的な条項であり、強者の論理、資本の論理そのもの。ISDSを克服すること自体、人類の英知が問われている。
・営利企業の医療への参入を招くことになり、命と健康は金儲けの対象にしない医療の非営利原則が崩される。
・助け合いの共済制度に民間保険会社と同等の規制がかけられる恐れがある。
・所得再分配、社会保障制度としての公的医療保険制度の下、医療をあまねく国民一人一人が享受できるようにすることこそ、医の倫理。

■公述起こし全文


1.根本勝則(日本経済団体連合会常務理事/自民党・公明党推薦)



 TPPをめぐっては各国に様々な動きがありますが、こうした時期だからこそ、日本がリーダーシップをとるべきであるという立場から意見を述べます。

 経団連では、昨年の1月、2030年までに日本が目指すべき国家像を描いた将来ビジョン 「豊かで活力ある日本の再生」を公表したところです。天然資源に乏しく、少子・高齢化による労働人口の減少に直面する我が国ですが、この再生の大きな鍵を握っているのはイノベーションとグローバリゼーションであるというのが、私たちのビジョンが打ち出しているメッセージです。

 いかにしてグローバル化を進め、海外の活力と成長力を取り込むのか。ビジョンでは、2020年までにEPAの相手国が我が国の貿易総額に占める割合を80%程度にまで引き上げ、2030年までにそうしたEPAの成果を取り込んだ高水準の多角的自由貿易投資体制を確立するという目標を掲げたところです。

 そうした目標を達成するために直ちに取り組むべき課題の一つとして掲げまたのが、TPP協定の早期実現でした。経団連は、TPPを始めとする経済連携協定の推進を、WTOを中心とする多角的な自由貿易体制の維持強化と並ぶ貿易・投資自由化のための車の両輪と考えて取り組んできました。現実には、WTOドーハ・ラウンドがなかなか答えを出せない中にあり、各国ともEPAのネットワークの拡大に力を入れており、我が国が国際競争でこれ以上不利な立場に置かれないためにはEPAの一層の推進が急務と考えています。

 しかし、これまでに我が国が締結したEPAの相手国が貿易総額に占める割合は約23%に留まっています。自動車、エレクトロニクスといった基幹産業において、我が国の企業と激しい競争を行っている韓国の貿易総額に占めるEPA相手国の割合は67%であり、大きな差があります。TPP協定が実現すれば、これが約40%となり、約20%のEU、38%の中国を超え、米国の47%に近づくことになります。

 我が国の産業の空洞化を防ぎ、投資先としての魅力を高め、本格的かつ持続的な成長軌道に乗せるために不可欠だということがお分かりいただけるのではないかと考えています。TPP協定の速やかな承認、発効への努力を引き続きお願いする所以です。

 経団連では、政府部内でTPP交渉への参加の検討が始まった2010年から、一貫して協定の早期実現を強く働きかけてまいりました。2010年3月に米国、豪州を含む8か国が交渉を開始するに及び、その直後の6月には交渉参加を経団連として提言もさせていただきました。結局、我が国の交渉参加は2013年7月まで待たなければなりませんでしたが、この間、様々な誤解や根拠のない懸念が広まりました。しかしながら、交渉参加後は広く情報提供を行う機会を設けるなど、政府、民間双方において努力した結果、そうした誤解や懸念はかなり払拭できたのではないかと考えているところです。

 我が国の交渉参加から昨年10月の大筋合意までの2年余り、経団連では協定に盛り込むべき具体的な要望を政府に提出させていただく一方、内外の経済団体と連携して共同提言を取りまとめ、各国政府に働きかける等の活動を行ってきました。

 また、交渉会合が開催される現地に代表団を派遣して、交渉の推進を働きかけてきました。その一環として、交渉が大詰めを迎えた昨年の夏から秋にかけての閣僚会合の際には、 経団連副会長を始め幹部が現地入りし、各国の経済界とも連携しながら、歴史的な合意を後押ししてきたと考えています。

 経済界は本当にTPP協定の実現を望んでいるのか、あまりそういう声を聞かないという批判があるとすれば、専ら私どものPR不足が原因でして、この機会に改めて経済界から見た協定の意義について、続いて説明させていただきたいと思います。

 協定の意義は、大きく分けて経済的な意義と戦略的な意義の2つがあると考えています。まず、経済的な意義について3点指摘させていただきます。

 第1に、世界のGDPの約40%、8億人の自由で公正かつ巨大な市場が誕生するということです。この市場の活力を取り込むことで、政府、世界銀行、民間の研究所、それぞれの試算によれば、我が国のGDPは約2.5%から2.7%押し上げられるという試算があります。

 第2に、成長著しいアジア太平洋地域に高度なバリューチェーンを構築することを容易にする制度インフラを獲得できるということです。例えば、基幹部品を我が国で生産し、それを東南アジアにおいて東アジアで生産された部品と合わせて組立てを行い、完成品を米国で販売するといった水平分業がビジネスの現場では進んでいます。TPP協定では、こうした複数の国にまたがって作られる製品については、累積原産地規則の下で、いわばメード・イン・TPPとして認定することによって、関税の引下げ、撤廃のメリットを享受できるようになります。

 その結果、高付加価値の基幹部品について、日本国内の工場での生産を維持することができますし、日本にとどまりながらグローバル化のメリットを享受することも可能になりますので、日本国内への投資を促し、雇用を生み出すことにもつながると考えています。実際に会員企業からは、TPP協定は新技術、新製品の開発を担う国内マザー工場の維持強化、先端技術の海外流出の防止、国内雇用の維持につながるとの期待を耳にしているところです。

 第3に、TPPは貿易や投資に関する広範かつ高度な水準のグローバルなルール作りをリードする21世紀型の画期的な協定であるというところです。例えば、電子商取引に関するチャプターでは、国境を越える情報の移転の確保、サーバーなどコンピューター関連設備の自国設置を求めることの禁止などが盛り込まれています。これによって、映画やゲームなどのコンテンツをインターネットで提供するサービスなどを行いやすくなるものと考えています。こうした時代に即したルールがTPP協定に盛り込まれたことによって、他のEPA交渉やサービス貿易に関する協定交渉にも既に波及効果をもたらしていると感じており、TPP協定が実現すれば、グローバルなルール作りが更に加速するということが期待できると考えます。

 また、新興国の一部ではコンピューター関連設備の自国への設置を要求する国内法を制定する動きが見られますが、これに対して、最近も 日米欧、豪州、カナダなど、40以上の経済団体が結束して反対の声を上げています。そうした結束を容易にしている背景にも、TPP協定における合意があるものと感じているところです。

 以上、申し上げたような経済的な意義を有するTPP協定を積極的に活用し、我が国の経済を成長軌道に乗せることこそ、成長戦略の要であると考えます。そのため経団連では、大企業のみならず、中小企業、農業生産法人、労働組合といった多様な関係者のご参加を得て、TPP協定の活用を促すシンポジウムを開催するなどの取り組みを行ってきました。また、TPP協定によってアジア太平洋地域に自由で開かれた予見可能性の高い経済圏を実現することは、昨今の反グローバル化や保護主義の伝播を断ち切るためにも必要であると考えています。

 次に、TPP協定の戦略的な意義について述べます。

 経団連としては、TPP協定を、自由、民主主義、法の支配、市場経済といった共通の価値観、原則に基づく経済秩序づくりの一環であると捉えています。また、アジア太平洋地域の安全保障において重要な役割を果たしている米国、日本、豪州を含む経済連携のネットワークがつくられることは、この地域の安定と繁栄にも大きく貢献するものと考えています。

 ベトナムのグエン・クオック・クオン大使は、 経団連の機関誌への寄稿の中で、「TPPへの参加により、太平洋の両側の国々との連携が深まり、この地域の重要なパートナーとベトナムとの長期的なパートナーシップが構築され、利益を共有できるようになる」と戦略的な意義を語っておられます。
 最後に、中小企業と農業にも一言触れさせていただきたいと思います。

 先ほど申し上げたTPP協定の経済的な意義は、大企業ばかりでなく、中小企業にも当てはまるものと考えています。実際、経団連のシンポジウムに参加され、既にベトナムで事業を行っている中小企業の方からは、「TPP協定は中小企業にとってフォローの風である」という発言をいただきました。先ほど申し上げた経済的な意義のほか、税関手続等の貿易円滑化のための規定は、中小企業の輸出拡大に貢献するものと考えています。

 農業については、粘り強い交渉の結果、日本からの農産品の輸出には関税がかからなくなる一方、我が国は2割弱の農産品について関税を維持することとなり、我が国の事情を踏まえた結果になったのではないかと考えています。今から力を注ぐべきは輸出と海外展開の強化であると考えます。この点、経団連としては、去る9月に提言を取りまとめ、公表しましたが、今後は、農業界と経済界との連携において、輸出、海外展開にもつながるプロジェクトの創設、創生、形成にも取り組んでいきたいと考えているところです。

 今週初め、トランプ次期大統領は、米国民向けのビデオメッセージで、大統領就任初日のTPP協定からの離脱に言及されたと聞いています。残念と言わざるを得ませんが、この点については、あまり予断を持たず、まずは我が国を含めた参加各国が国内手続を進めていくことが将来への道筋を開く上で重要だと考えます。経済界としても、TPPの経済的な意義のみならず、アジア太平洋地域の平和と安定に重要な役割を果たすという戦略的な意義を、機会あるごとに訴えていきたいと思います。

2.内田聖子(アジア太平洋資料センター代表理事/民進党推薦)



 私たちの組織は日本に基盤を置く国際NGOですが、80年代以降の新自由主義の促進や自由貿易、投資の自由化の推進がもたらした負の側面について、途上国、先進国の市民社会とともに調査研究や発信、政策提言を続けてきました。TPP以前のWTOや多国間投資協定、現在ではRCEP(東アジア地域包括的経済連携)やTiSA(新サービス貿易協定)などのメガFTAにも着目しています。

 いまTPPが直面している状況は、まさに過去30年の自由貿易推進の歴史の失敗を如実に表していると指摘したいと思います。その意味で、私たちはいままさに、今後の国際貿易のあり方の大転換を迫られているという歴史的な岐路に立っているという大きな認識がまず必要かと思います。

 TPPだけでなく、アメリカとEUの自由貿易協定、TTIP(環大西洋貿易投資パートナーシップ協定)やRCEP、TiSAも、非常に交渉は難航し、進んでいません。日本とEUの経済連携協定も同じです。

 これは、例えば先日のイギリスのEU離脱やアメリカの選挙の結果でトランプ氏が選ばれるというところにも、人々の政治的な意思として、自由貿易のやり方やルール、 フォーマットそのものがもう立ち行かないということを示している一つの証左だろうと思っています。

 今日はTPPの中身の問題点を十分に指摘したいと思っていますが、やはりその前に重要な点を申し上げたいと思います。それは、なぜ今この国会の中で、TPP協定、関連法案が粛々と議論され続けているのかという点です。衆議院の段階からもそうでしたが、日本が急いでTPPをこの国会で批准するという合理的な理由はすでにありません。

 外的な要因としては、アメリカの大統領選の結果や、オバマ大統領の残存期間であるレームダックでの承認もほぼ可能性はゼロです。それに伴い、いくつかの国では、この大統領選の結果を踏まえて、当面は状況を静観するという態度を取り始めた国もあります。

 今日は、マレーシアのムスタパ外相が出した声明も資料として付けていますが、ここにあるのは、「マレーシアは米国の次期政権の下でのTPPの行方を見極めていく。米国がTPPを批准しないと決定した場合、ほかの加盟国とともに次の方針について議論する」、つまり静観する、急がないという方針です。

 こういう外的な要因というのはいくつかあります。ただ、アメリカや他の国がどうとかいうことで国会が左右されていいのか、という論もあると思います。それはその通りだと思います。

 では、日本の国会でどうなのかということについては、4月の国会、そして9月からの国会も含めて、この衆参の審議を通じて見えてきた様々な問題があると思います。

 一つは、TPPは大変膨大な領域をカバーする協定です。協定文だけでも8,000ページ以上、分野も21分野にも至ります。この国会では、やはり農業の関税問題が中心になっており、十分に全ての分野が熟議されたとは到底思えません。

 それから、メリットがあるということについても、いま一つ具体的ではなく、国民に行き渡るようなメリットがどこにあるのかという点が、まだ十分に明らかになっていません。

 そして問題点の方は、野党の議員の方が次々と質問されていますが、秘密交渉であり交渉のプロセスは開示されないという壁にぶつかって、十分にその経過が分からないので議論が深まりません。

 4点目は、この審議を通じて、TPPを批准するかどうかという以前に、例えば今の日本の食の安心・安全に関する規制の状況などがすでに非常に問題があるということが次々と指摘されています。というように、このような議論の進行状況では、良いも悪いも、とても国民的な理解を得られていないと思います。

 5点目としては、先の衆議院のTPP特別委員会で強行採決というものが行われました。これは国民から見ても、到底受け入れられない非民主的な決定だったと思っています。

 こうした状況を受けて、世論は日に日にTPPについて疑念と不安を高めています。審議をすればするほど不安が高まる、わからないという方が多くなっています。そして、慎重審議を求める声も各種世論調査で増えています。

 最後に、つい先日、トランプ氏の100計画の発言がありました。これを受けて、安倍首相自身が成長戦略を練り直さなければならない事態に至ったという 報道もあるほどです。これは確かにそうだろうと思います。アメリカがどうあれ、この決定に日本も影響を受けざるを得ませんから、成長戦略全体を練り直さざるを得ないというところまで来ているわけです。

 つまり、これまでは、TPPで成長するとか、海外の成長を取り込むとか、グローバルマーケットなど、色々なことが言われてきましたが、TPPは成長戦略の柱として位置付けられていました。その柱が発効するかどうか、ほぼ絶望視されている中で、何もなかったかのように批准を進めていいのかということは、私だけではなく多くの国民が思っていることだと思います。ひょっとすると、政府・与党の議員の皆さんの中にもどこかで、なぜ今これをやるのかと思っている方がいるのではないでしょうか。

 ですから、私は批准というプロセスを一旦停止するしかないと思っています。これは承認のプロセスを全て破棄せよということではなく、マレーシアが取った態度のように、一度立ち止まって静観する、相手の出方を見ると。アメリカの市民でさえ、今、新大統領に対して“See and wait”と言っています。黙って見つめて、次の体制を取ろうということです。アメリカの国民ですらそう言っている状況の中で、どうして日本が国会で審議を進めるのかという問題です。

 ですから、私はまず、即座にこの審議を止めるということをやはり提案したいというのが、今日一番の強い思いです。

 なぜ、そういうことを言うかというと、TPPの発効がほぼ絶望視されていくなかで、じつはすでに日本の中では、様々な形で予算が執行されていたり、TPP発効を見据えた、TPPを前提とした様々な対策、それから中小企業に対する投資をどんどん海外でやろうというような推進が各地で行われて、実際にそれを実行している企業などもあるわけです。あるいは、農家のなかには、TPPが発効してしまえばもう農業続けられないと、「TPPに背中を押されて農業やめました」という方も多数います。影響はもうすでに実際に起きているということを鑑みれば、TPPが発効するからという名の下で、これ以上の規制緩和や一人一人の方の生業や人生の選択にまで関わる事態を放置することはできないと思っています。

 予算に関しては、東京新聞が一昨日報道しましたが、すでに「TPP対策大綱」の下で1兆1,906億円の予算が組まれています。このうち2015年のものはすでに執行されていますし、2016年のものも、相当程度執行されていると聞いています。

 他国はどうなのかといえば、ニュージーランドやオーストラリア、アメリカは当然そうですが、発効もしていなければ批准もしていない状態のなかで、TPP対策の予算を組んで執行しているような国などありません。当然だと思います。その意味で、この間、日本は極めて異様な、異常な状況をつくってきたと言わざるを得ないと思います。

 そして、TPP発効が絶望視されるなかで、私はやはり日米並行協議の問題は非常に重要な危機として感じています。日米並行協議とは、日本が交渉に正式参加する前の2013年4月にアメリカとの間で始めた交渉です。これは日本が参加するための前払あるいは入場料としてアメリカからの要求に相当程度応じた、一方的で片務的な交渉だということは、TPPを推進している有識者の方でさえ指摘しています。

 対象となる分野は非常に多岐にわたります。自動車から食の安心・安全、急送便、知財、投資など、非常に多岐です。ところが、この全容はいま一つ明らかになっていません。政府の公表している文書は手に入れていますが、基本的には全部が開示されていないのだろうと思います。

 問題は、これがすでに日本国内において、いくつかの分野では実現されてしまっているということです。例えば保険分野では、アフラックという米国の外資系企業がかんぽ生命の新規参入を認めないということを決定して、そして日本の郵便局のネットワークを使って販売できるというようなことも実際に行われています。食の安心・安全に関しても、ここに挙げているのは米国の要求ですが、すでに規制緩和が進んでいます。

 全容が分からないなか、私たちもいろいろと調べているのですが、一つ、大変気になる記述が、この『ドキュメントTPP交渉』という、朝日新聞の鯨岡仁さんという記者の方が最近出された日米の交渉とTPPに関する本の中で、日米並行協議についてこのように書かれています。
2013年に始まった並行協議で、アメリカではカトラーさんというUSTR代表代行が来て、日本では外務省の経済外交担当の森さんという方が交渉していたのですが、その下りをちょっと読みます。

 「カトラーは、日本側の外務省経済外交担当大使、森健良に“要求リスト”を差し出した。その内容は、米韓FTAに盛り込まれたものに似た、法外なものであった。 日本側は、TPP交渉に入る前の事前協議で、米国の自動車の関税撤廃を TPP交渉で最も遅いものとそろえるという条件を呑まされた」など、色々と続きますが、一番重要なのはこの一文です。 「しかも、カトラーは丁寧に、日本の法改正リストまでつくり、森に手渡した」と書いてあります。

 こうした事実を、少なくとも国民は聞いていません。国会議員の方々も、こうした法律の改正リストを作られて突き付けられたということをご存知なのかどうか、私はわかりませんが、こういうところにまで、TPPと並行する協議のなかでかなり攻められてきているという事実があります。

 この日米並行協議というのは、そもそもTPPと並行して始まったものであり、政府の見解としては、日米並行協議はTPPが成立しなければ無効となる、意味を成さない、これが従来の説明でした。つまり、すでにTPPが発効してもいない、批准してもいないなかで、実際上、私たちの社会というのは変えられてきているわけです。あるいは、水面下で色々なことが攻められているわけです。

 発効しなかったら、ではどうなるのか。それは当然、何もなかった状態に戻していただかなければ困ります、という話になっていきます。この辺りが全く不明瞭でよくわからない領域です。

 ですから、TPPの行方がどうなるかわかりませんが、私は冷静に、発効しないときにこれらの責任をどう取るのか、そして原状復帰をどうやって行い、そして次の体制にどうやって臨むのかということこそが、いま日本政府、与野党を問わずして取り組むべきことだと思っています。

 その他、TPPではやはり中小企業へのメリットがなく、むしろ打撃になるという話もしたいと思っていましたし、ISD条項は大変私どもも懸念している分野です。 こういうお話もしたいのですが、時間になりましたので、後でご質問いただければ、詳細をご説明したいと思います。

 最後に、いま何が問われているのかという点についてです。いまほど、各国、色々な地域でこの貿易や投資というのが主要な政治課題になっているという時代はないと思います。アメリカを見ればわかるように、貿易が政治的な課題になると。これはなぜかといえば、この30年の自由貿易の歴史というもので、確かに大企業は多大な利益を得て、租税回避をしながら肥え太っていきました。しかし問題は、それが人々に還元されないということ、とりわけ日本では、賃金は1997年度以降上がっていません。企業は設けますが、人々は豊かになっていない、格差が広がっている、あるいは地域間格差というのも広がっています。投資も、利益を蓄積していくのも、大都市に集中しているんです。これは世界の各地で起こっている現象です。

 このことの矛盾が露呈しているのが、アメリカでの選挙の結果です。たくさんの報道にありましたが、アメリカの地方都市で地域が荒廃して、仕事を失って、ラストベルトといわれているところで、白人の労働者の人が絶望をして、トランプ氏に投票すると。コミュニティーももうぼろぼろです。仕事もない。私はこの光景を見て、もしかしたら日本の近未来を表しているんじゃないかという恐怖すら覚えます。

 ですから、いまどういう貿易が必要かという意味で問われているのは、大企業や投資家だけが利益を得る仕組みではなく、どうやって公平な分配、地域の再生ができるか、こういう貿易のあり方をきちんと議論をしていくと。これは、国際的な市民社会や国連、様々な専門家の間での共通のテーマにすでになっているという意味では、日本も何とかそこにきちんとキャッチアップして貢献をする、市民社会も国会議員の皆さんも含めて、そういう意識で私どももぜひ努力をしていきたいと思っています。

3.萩原伸次郎(横浜国立大学名誉教授/共産党推薦)



 去る11月8日の米国の大統領選挙で、共和党大統領候補のドナルド・トランプ氏が次期大統領に選出されました。TPPから離脱するということが明らかになりました。1月20日に就任式がありますが、そのときに発表するということですので、最も重要な政策課題としているわけです。
また、オバマ政権は、11月8日から翌年新政権までの連邦議会、一般にレームダックセッションといわれますが、そこでのTPPの批准を強く要請していしたが、下院議長のポール・ライアン氏、上院院内総務のマコネル氏の賛成を得られず、オバマ大統領もTPP批准を諦めたということです。従って、昨年の10月5日に大筋合意したTPP協定は発効できないということになります。

 米国は現署名国GDPのほぼ60.3%を占めますので、米国が協定から離脱すると、発効条件の85%以上に達しませんので、この協定は成立しません。歴史的なごみ箱に入れられたという表現もされているわけです。

 従って、この国会でのTPP審議の意義というのは、私は基本的に崩壊していると考えますが、政府・与党はあくまで今国会で成立を、ということですので、一国民の立場からこのTPP協定について意見を述べさせていただきたいと思います。

 経済政策というのは、国民大多数の経済繁栄と安定を目的に策定されると私は考えています。経済利害というのは、当然ながら経済的立場によって異なります。ですから、その政策実施によっていかなる人が利益を獲得し、いかなる人が不利益を被るのか、それを比較考慮して、一部の人々のみが利益を得る、あるいは多くの人が利益を得ないという政策は採用すべきではありません。よく国益という言葉がいわれますが、それは立場の違いによって異なるわけでして、政策を実行していく人たちは、大局的立場から判断することが求められているわけです。

 トランプ次期米国大統領がTPP離脱表明をしたというのは、雇用の喪失、賃金下落という事態を招くTPPは米国の政策として間違っていると、そういう判断を下したからです。代わって、トランプ次期大統領は、米国は公平な二国間貿易協定を進めると明言しました。この貿易政策は我が国に対してどういう影響があるかといことは、今日のテーマではありませんので差し控えます。本日は、現在、政府与党が成立を急いでいるTPP協定が対象になるわけでて、そもそもこのTPPとは何なのかということを、やはりきちんと押さえることが必要だと思います。

 言うまでもなく、このTPP協定というのは30章からなる膨大なものであり、内閣官房のTPP政府対策本部がまとめられたTPP協定の意義というものを読むと、その本質がよく見えてきす。21世紀型の新たなルールを構築するTPPは、物の関税だけでなく、サービス、投資の自由化を進め、さらに知的財産、電子商取引、国有企業の規律、環境など、幅広い21世紀型のルールを構築するものというのが一つ。それから、成長著しいアジア太平洋地域に大きなバリューチェーンを作り出す、域内の人、物、資本、情報の往来が活発化し、この地域を世界で最も豊かな地域にすると、これは根本公述人が述べられたことと重なるわけですが。

 ここから見えてくることは、TPP協定によって海外進出を図る多国籍企業は、国境を越える統合を円滑にして、国内市場を開放する継ぎ目のないバリューチェーン、サプライチェーンと言いますが、そういうものを形成し、生産の効率性を高め、企業利益をグローバルに高めるということになっていきます。

 TPPを推進する方は、自由貿易というのは、生産性を高め、イノベーションを引き起こす、そして輸出増大による高賃金職の創出につながると言うわけですが、こうした貿易効果というのは、すでに過去のものになっています。企業が原材料から完成品まで国内で行って輸出を増加しているという時代の話でして、確かに日本の高度成長時代は、自由貿易は輸出の増進、雇用の増進につながりました。しかし、今日の多国籍企業の時代では、国境を越えて企業は利潤追求のための効率的なバリューチェーン、サプライチェーンを形成しますから、自由貿易の促進というのは必ずしも雇用の増大にはつながりません。

 現在、米国のAFL-CIO(全米労働総同盟)はTPP批准反対を主張していますし、次期大統領のドナルド・トランプ氏がその声に耳を傾け、TPP離脱を行おうとしている背景には、1994年の北米自由貿易協定(NAFTA)によって米国内の雇用が失われ、1990年代の後半、IT革命による景気高揚にもかかわらず労働賃金の上昇にはつながらなかったという苦い経験を踏まえ、TPPはそのアジア太平洋版であると言っていることが重要なポイントです。
TPP協定が多国籍企業本位の国際連携協定であるということを示す事実は事欠くことがありませんが、例えば第3章の原産地規則及び原産地手続を定めた箇所を検討すると、それが非常に明らかになります。

 ここでは、輸入される産品につきまして、関税の撤廃、引下げの関税上の特恵待遇の対象となるTPP域内の原産品として認められるための要件、そして特恵待遇を受けるための証明手続というのが定められていますが、国境を越えるバリューチェーンの観点からこの箇所の規定を見てみると、複数の締約国において、付加価値、加工工程の足し上げによって原産地を説明する、つまり完全累積制度ということでして、これは明確に多国籍企業が国境を越えるバリューチェーンの形成を促進するということになります。

 なぜかというと、一般の原産地規則というのは付加価値方式でありますから、当然、当該国の付加価値のみが輸出の場合にカウントされるわけですが、累積制度を採ると、当該国のみならず、輸入してくる先の生産された部品、中間財の付加価値も原産品としてカウントされるので、バリューチェーンのコストダウンというのを締約国内で自由に形成することができるようになります。

 従って、自由貿易による輸出促進が雇用を増大させるとよくいわれますが、必ずしもそうなる保証はどこにもないということです。多国籍企業にしてみれば、賃金が高ければ、そうした地域を避けて、締約国内のどこでも自由に企業活動ができる、他企業との取引も可能になるというものです。
第9章の投資においても、TPP協定は多国籍企業が締約国内のどこでも自由に企業活動ができるように様々な仕掛けを用意しているということがあります。投資しようとする締約国とそうでない他の国を差別してはいけませんし、一旦企業が設立されればその国の企業と同じように処遇すべきであるという、外資系企業では差別してはならないとか、あるいはローカルコンテンツの要求、技術移転の要求をしてはならないとか、様々なことがそこで定められております。

 つまり、効率的なバリューチェーンを形成するということがこのTPPの目的ということになりますので、いわばそうした様々な現地の企業の要望というものが無視されて、多国籍企業本位のサプライチェーン、バリューチェーンが形成されるということが大変大きな問題です。

 そして、ここでは時間も限られていますので申し上げることを差し控えますが、とくにISDSという問題もあります。

 そして、言うまでもなく、このTPP協定の大変大きな問題は、農産物における関税が、確かに一部では守られておりますが、中長期的には限りなくゼロに近づくということが大変大きな問題になっているわけです。これは、一般的に農業の問題であると考えられています。確かにその通りで、こうした関税撤廃であるとか、無関税枠が拡大していくということは、いわば日本の農業に壊滅的な打撃を与えると同時に、食料自給率が低下する、あるいはそれに伴って地域経済の崩壊というものが引き起こされるという可能性が出てくるわけです。

 TPPを推進する方は、関税撤廃によって輸入製品の価格が低下して消費者が恩恵を被るということを主張されますが、締約国から安い農産品や食品が日本に大量に入ってくるということになれば、日本の賃金は確実に低下の傾向をたどることになります。賃金は基本的に生活費から成り立っているということを忘れてはならないということです。農産物の約8割が無関税で日本に入ってくるということになれば、当然、食料品価格の低下と生活費の低下と賃金削減というような事態になっていき、日本経済のデフレといわれる状況は解消するどころか、より深刻な事態になるということが懸念されるわけです。

 さらなる賃金低下、内需の落ち込み、デフレの進行、これは魔のスパイラルといわれていますが、こうした事態がTPPによって引き起こされる可能性を否定することはできません。日本銀行が必死になって金融緩和政策をして、デフレを物価上昇に持っていこうという政策を採っていますが、実体経済が停滞している以上、それはなかなか難しいということを考えなければなりません。
従って、安倍首相も、賃金を上げる、日本経済を活性化したいとおっしゃっているわけですから、そういう安倍首相の考えを実現するということを考えれば、まさにこのTPPから離脱することこそが、日本の賃金、経済、そして地域の底上げということになる。それをやはりぜひ考えていただきたいということです。

 従って、TPPは確かに多国籍企業や海外進出を図ろうとする一部の中小企業の利益になると思いますが、多くの労働者、農業者、それから中小企業の方々、消費者、地域住民、そういう層との矛盾というのを大変深くするということになります。従って、私は、今国会でこのTPP協定を批准するということに対して反対したいというのが結論です。

4.住江憲勇(医師・全国保険医団体連合会会長/公募)

 私は、全国保険医団体連合会という、地域の第一線の医療機関で働く保険医の医科、歯科合わせて1万5,000名を擁する団体の会長です。そういう立場で意見陳述させていただきます。

 衆議院での強行採決に抗議し、今国会での承認、批准を行わないことを求めます。政府・与党は、アメリカ大統領選挙の結果など情勢の変化にもかかわらず、また、徹底審議を求める多くの国民の声を無視して、TPP協定の承認案及び関連法案の衆議院での採決を強行し、参議院に送付しました。これは、情報開示と国民的な議論を求めた国会決議にも反するものです。私たちは、TPP協定内容の十分な開示と臨時国会での徹底的な審議がなされないまま、今国会で承認、批准されることは断じて許されないものと考えています。

 協定上、今以上の情報開示は困難というならば、そもそもそんな貿易交渉は21世紀のいまのこの世界では認められないと思います。

 そもそも貿易交渉のあり方とは、相手国と相互に事情、実情を真摯にしん酌し合い、対等、平等、互恵関係を構築することにあると思っています。TPPのように、ただただ投資家・多国籍企業が徹底的に保護され、相手国に徹底的に市場開放を求め、投資・多国籍企業に徹底的に有利な紛争解決規定を求める、こんな強者の論理、資本の論理むき出しのTPPでは、いま、全世界で反省の極みにある、前世紀までの列強による世界支配によってテロのような報復の連鎖を生んでいるという反省に対する冒涜であり、何よりも報復の連鎖の再生産そのものであるということを銘記しなければならないと思っています。

 公的医療保険制度を切り崩し、国民の生活と健康を損なうという危険があります。私たちは、政府が明らかにしている内容だけから見ても、TPP協定は我が国の公的医療保険制度を切り崩し、国民の生活と権利を損なうものであると考えています。地域医療に従事する医師、歯科医師の団体として、以下の点から、TPP協定の国会承認を行わないよう強く求めるところです。

 一つ、新薬の高止まりが続き、医療保険財政を圧迫することです。政府は公的医療保険制度のそのものの変更はないとしています。しかし、医薬品については制度的事項で取り扱われ、透明性や手続の公正の名の下に、公的医療保険制度の一部である医薬品の保険適用や公定価格に関する我が国の決定プロセスに多国籍企業が利害関係者として影響力を及ぼすこと、すなわち日本の薬事行政への介入が懸念されます。

 また、特許期間の延長やバイオ医薬品のデータ保護期間の設定、そして特許リンケージといった多国籍企業に有利なルールで、現状でも諸外国と比べて高い日本の薬価が構造的に維持され、また、特許延長はすなわちジェネリック医薬品の開発を限りなく遅延させることになります。

 私ども全国保険医団体連合会は、20年来、日本の薬価、国際的に見て高薬価ということを盛んに警鐘してきました。2010年に再度、国際比較調査しました。そうすると、イギリスを100とすると、日本は222、米国は289というデータが出ました。これを厚労省に提示すると、厚労省は「本当にほんまかいな」ということで、再度、厚労省として調査しました。そうすると、イギリスを100とすると、日本は197、米国は352というデータが出ました。米国については、私どもの調査よりも高く出ました。そういう構造があります。

 こうした仕組みにより、安価で有効な医薬品が手に入りにくくなり、患者、国民の命や健康が危険、危機にさらされるだけでなく、我が国の医療保険財政が圧迫されることになります。

 ここで、皆さんご承知の「オプジーボ」の問題を紹介したいと思います。これは、薬価が100ミリグラム73万円で、60kgの人は1回投与すると130万円、1年間で3,500万円かかるという高薬価です。最初、悪性黒色腫という腫瘍に対する症例で適用され、大体470症例、31億円程度の経済規模とされてそのような薬価が付いたのですが、この薬価を私どもの調査でイギリスを100とすると、アメリカは200、日本は500という事実が判明しました。私ども保団連として厚労省と交渉し、厚労省としては25%引下げで幕引きを狙ったと思いますが、経済財政諮問会議でも私どものデータが取り上げられ、11月16日に中医協総会で、「市場拡大再算定ルール」が適用され、50%引下げが決定されました。

 TPPの下であればどうでしょうか。直ちにISDS条項の発動という事態になったかもしれません。「50%引下げなんてとんでもない」と。従来、日米経済の色々な会合、最近は「対話」や「調和」などややこしい名前の会議ですが、そういうところで盛んにUSTRから市場拡大再算定ルールを撤廃せよという要求が毎年のように来ていたわけです。そういう事実があります。

 次に、ISDS条項の導入で医療の非営利性が脅かされる懸念がございます。そもそもISDS条項とは、投資企業が法的整備のない相手国でどんな損害を被るかわからないということで、一定の保障を担保するという前時代的な条項であり、TPP参加12か国は全て法治国家で、こんな条項を設定する必要は全然ないのです。こんな前時代的な条項を持ち出すこと自体、強者の論理、資本の論理そのものであるといわざるを得ません。ISDSを克服すること自体、いままさに人類の英知が問われているのではないかと思います。

 現在、構造改革特区において、自由診療については株式会社による医療機関経営が認められています。保険診療を取り扱うには保険医療機関の指定を受ける必要がありますが、国家戦略特区において、外国の株式会社が医療機関開設の許可を得た後、当該医療機関の保険医療機関としての指定を求めてISDS条項の発動を求めるおそれがございます。そうなれば、営利企業の医療への参入を招くことになり、命と健康は金儲けの対象にしないという趣旨で現在も堅持されている医療の非営利原則が崩されることになってしまいます。

 そのほか、ネガティブリスト方式で、きっちり営利企業参入禁止という項目が医療の項目の中に書き込まれているかどうか、これも甚だ不明瞭であります。もう一つ重要なことは、SPS(衛生植物検疫措置)で、危険性の評価は徹底的に科学的根拠に基づくとされています。国民の命、健康にとって、「これはまずい」という恐れがあるとき、予防的に事前規制をかけることが不可能になる危険性があります。

 最後に、助け合いの共済制度に民間保険会社と同等の規制がかけられる恐れがあります。当会は、会員が安心して診療に従事し、地域住民の命と健康を守る役割を果たせるよう、助け合いの制度として保険医休業保障制度を運営しております。1970年の発足以来、多くの加入者の生活と医院経営を支えてきました。ところが、TPP協定の金融サービスでは全ての保険サービスが対象となっています。米国保険業界は、長年、共済が事業拡大の妨げになっているとして、各団体が行っている共済制度などにも民間保険会社と同等の規制を課するよう求めており、TPPの今後の協議においてこの圧力が強まることが十分想定されます。そういう危険があります。

 最後に、国民の命、健康、暮らしに関わる医療を市場原理に委ねて、国民一人一人、「自己責任で手当てせよ」では、貧困と格差がつきまとう資本主義社会では、一人一人に行き渡りようがありません。だからこそ、所得再分配として、社会保障制度としての公的医療保険制度があります。医師、医学者としても、今日の最新最善の医学、医療を、あまねく国民一人一人が享受できるようにすることこそ、医の倫理と私どもは考えています。

 これを全うできるのが、公的医療保険制度こそでございます。この公的医療保険制度を瓦解させる、そういう危険大であるTPPには断固反対を表明します。